
忙しくなるとついつい削ってしまいがちな睡眠時間。
しかし、睡眠不足は思っているよりもリスクをはらんでいるかもしれません。
睡眠不足によってもたらされる問題についてまとめてみました。
【目次】
1. 睡眠不足はイライラのもと
2. 睡眠不足は意志の力を弱める
3. 睡眠不足はアルツハイマー病のリスクになる⁈
1. 睡眠不足はイライラのもと
味の素が行ったワーキングマザーの睡眠とストレスの実態調査によると睡眠時間は日本が先進国中最下位だったそうです。そして、その睡眠時間も分眠、つまり睡眠の質もあまり良いものとはいえないようです。
しかも少子化問題がこれだけ言われているにもかかわらず、2006年に行われた調査の時よりも更に睡眠時間が減っているそうです。なんだか残念ですね。この状況では、子供にやさしく接しましょうと言っても無理があります。
というのも、脳のしくみとして、睡眠不足になったらイライラするということはごくあたりまえの現象だからです。
2007年にアメリカのハーバード大学のマシュー・P・ウォーカーらのグループが報告しています。
26人の学生を「睡眠充足グループ」と「睡眠不足グループ」の2つのグループに分けます。
睡眠不足グループの学生には、一晩一睡もせずに徹夜をしてもらいます。
そして、その両グループの学生に凄惨で不愉快な映像を見てもらいます。
すると、その2つのグループで脳の活動に違いが見られました。
睡眠不足グループでは扁桃体が異常に活性化し、前頭前野の機能も低下していました。
扁桃体というのは、怒りなどのネガティブな情動に関係する場所です。
そして、前頭前野(内側)は自分が何であるかという自己認知に関わっていて、扁桃体を鎮める働きもしています。
つまり、ネガティブな感情を感じる場所が異常に活性化して、更にそれを抑える場所の機能が低下しているという事です。
これが睡眠不足による「イライラ」の原因というわけです。
しかも、自己認知の機能も低下しているので、「我を忘れ」て周囲に当たり散らしてしまうという事が起きやすいわけです。
The human emotional brain without sleep — a prefrontal amygdala disconnect
Yoo SS, Gujar N, Hu P, Jolesz FA & Walker MP. The human emotional brain without sleep: A prefrontal-amygdala disconnect. Current Biology 2007; 17(20): 877-878
2. 睡眠不足は意志の力を弱める
なにか目標をたてたとしても、それに向かって努力し続けるというのはなかなか難しいものです。
多くの人が年の初めに今年の目標を立てますが、イギリスのハートフォードシャー大学のリチャード・ワイスマン教授が2010年イギリス国内で行った調査によると、1月末までに挫折した人は80%にも上ったとか。
『なぁんだ、みんなも挫折してるんじゃん』って思うと仲間を見つけたようでちょっとホッとしたりもします。
まぁ、目標なんて挫折を繰り返しながら達成していくものかもしれません。
とはいっても、せっかく立てた目標はなるべく達成したいものです。
そのために、重要になってくるのが睡眠だと言われています。
リチャード・ワイスマン教授が行った調査によると睡眠時間が7時間を下回ると、意志の力が弱まり、目標前に挫折しやすい傾向となるそうです。
疲労感によってセルフコントロールが弱まるせいではないかと推察されています。
特に、難しいことやあまりやる気の出ない事をする時というのは、脳がエネルギーをたくさん必要とします。そこで睡眠時間が足りなかったりするとそれを続けるのに必要な精神力が得られないというのです。
1000人の人を対象に睡眠と新年の誓いに対する成功度について回答してもらいました。
そうしたところ、睡眠を十分にとっていた回答者は、60%が目標達成に成功しました。ところが、睡眠を十分にとれなかった人たちでは44%に留まっていたそうです。
元ネタはこちら
http://www.dailymail.co.uk/…/The-key-keeping-New-Year-s-res…
3. 睡眠不足はアルツハイマー病のリスクになる⁈
最近では、睡眠不足がアルツハイマー病のリスクになるのではないかという報告がありました。
アルツハイマー病の人は脳内にβアミロイドという物質が蓄積しており、アルツハイマー病の原因と考えられています。そして、睡眠にはこれらの老廃物を取り除いてくれるのです。
2009年にアメリカのワシントン大学の研究チームがマウスで行った実験です。
脳内のβアミロイドの値は起きている時には高く、睡眠時には減少していました。
さらに、マウスを1日20時間起きつづけさせ、「睡眠不足」にすると、脳内のβアミロイドの蓄積が進行したそうです。
2013年にアメリカのロチェスター大学で行った実験によると、マウスでは、眠っている時は起きている時と比べて、脳の中の体液が流れる隙間が60%以上大きくなっていたということです。つまり、それだけ老廃物の排泄が良くなっていたということです。
実際、眠っているマウスの脳の中のアミロイドβを調べたところ、起きている時と比べて2倍も速く脳から取り除かれていました。
では、これが人だとどういう変化をもたらすのでしょうか。
同じグループが45~75歳の健常者145人を対象として行った実験があります。
現在の状態を調べるため、事前に髄液を採取しβアミロイド濃度を測定しました。その結果、すでに32人のβアミロイド濃度が高く、アルツハイマー病の前段階にあることが判明しました。ただ、まだ認知機能には影響は出ていませんでした。
そこで、参加者に2週間、就寝時間と起床時間、昼寝の時間などを記録してもらいました。
同時に手首に着けたセンサーで睡眠中の体の動きをモニターし、客観的な睡眠時間を計測しました。
すると、すでに髄液中のβアミロイドが高かった32人は、健康な人たちと比べて、ベッドに横になっているわりに睡眠時間が短く、1週間に3日以上、昼寝を必要とすることが判明しました。
つまり、睡眠障害がβアミロイドの蓄積をもたらし、βアミロイドの蓄積によって睡眠障害が生じるという悪循環になっている可能性があるという事です。
脳とこころの豆知識 - 睡眠