小さい時の母親との関係性が大人になってからの自分の人生に影響を与えていると言われています。たしかに、小さい子供にとっては母親というものは自分の命に直結するものですから、それくらい影響力があるのかもしれません。
社会生活を送るうえで大切になってくる要素、例えばストレスへの耐性や好奇心、精神的に安定や社会への信頼感は子どもの時の母親との関係が関連しているとも考えられています。
ラットではありますが、母子分離に関して衝撃的な報告があります。
1950年代終わりから1960年代初めにかけて行われた実験です。
ラットは、生後すぐから21日間、毎日子供のラットをケージから出して、15分間だけ母親から隔離を経験させます。
するとたった15分間の隔離にも関わらず、行動と性質に生涯にわたる変化を生じたそうです。
どういう変化かというと…隔離を経験したラットはストレスに対して強かったそうです。
えっ!! 逆じゃない?? 隔離されたのにどうしてストレスに対して強くなるの? って思いませんか?
その理由は、母ラットにあります。
というのも、隔離された子ラットの母親は、子ラットに対してリッキング(なめる)やグルーミング(毛繕い)を行う頻度が高かったそうです。
母親から隔離された子ラットがケージから出されている間、ヒトには聞こえませんが母ラットには聞こえる超音波領域の声で鳴き、それを聞いた母ラットが熱心にそのような行動をとるのではないかと推測されています。
まるで、赤ちゃんが大声で泣いた時に人間の母親が一生懸命あやすように…。
ただ、もちろんラットにもリッキングやグルーミングを行うかどうかに関して個別差はあります。
そこで、実際どちらがストレスに関係しているのか?ということが問題になると思います。
隔離なのか? 母ラットの態度なのか?
神経科学者のマイケル・ミーニーが行った実験にその答えがあります。
母ラットのリッキング頻度が高かった子ラットと低かった子ラットが成人した時のストレスの反応を調べています。
母ラットが頻回にリッキングをしていた子ラットは、ストレスに強く、好奇心が強く、穏やかで、精神的に安定し、進んで新しい環境を探索したそうです。
一方、無関心で子供をかまわない母ラットに育てられた子ラットは、怖がりでストレスに弱く、精神的に脆弱なラットに成長しました。些細なストレスに恐々とし、簡単に驚き、慣れない場所を怖がり、初めての状況に直面すると恐怖で身をすくめ、探索の意志がなかったそうです。
赤ちゃんにとって母親の存在というのは、自分の生死に関わる大切な存在です。
母親が与えてくれなければ食事もとれないのですから、赤ちゃんにとっては母親が自分に関心を向けてくれるのかどうかというのが最大の問題なのかもしれません。