感覚は騙される~ゴムの手の錯覚~

感覚は騙される~ゴムの手の錯覚~Harmonista154

私たちの感覚も騙されることがあります。
実際、どれくらい自分の身体の感覚があいまいなのかということを示しているのが、2004年にロンドンの神経内科医エアソンらが行った『ゴムの手の錯覚』という実験です。

被験者は、自分の左手をテーブルの下など自分の視界から見えないところに隠して座ります。
そこには、本物そっくりのゴム製の左手が自分の目の前においてあります。

検査者は隠れて見えない被験者の手とゴム製の手を細い筆でなでます。
不思議なことに、2つの手を同時に同じ方向でなでると、被験者はゴム製の手をあたかも自分の手であるかのように感じ始めるというのです。

目の前にあるのは、自分の手じゃなくてゴムの手だと知っているにもかかわらずです。
実際に被験者に「右手で左手を指してみてください」と指示すると、被験者はゴム製の手を指す傾向がみられるそうです。

ただし、最初に自分の手とゴム製の手で、なでる方向が違ったり、タイミングが違ったりすると、被験者はゴム製の手を自分の手と感じることはないようです。

では、この時に脳は、いったいどのように働いているのでしょうか
実験中に被験者の脳の活動がどうなっているのかを、fMRIを使って調べた実験があります。
実験中まずは、頭頂葉の活動が高まります。
そして、ゴム製の手が自分の手であると感じ始めるにつれて、運動の企画に関係するとされる運動前野の活動が高まっていたのです。撫でる方向が違って、ゴムの手を自分の手と錯覚しないときには運動前野は活動しませんでした。

つまり、頭頂葉は筆でなでれていることを触覚だけでなく視覚も使って解析しているということです。
頭頂葉が、触覚からの情報と視覚からの情報が一致していると判断したとき、つまり自分の目で見ているなでる方向やタイミングと実際感じているものが同じであるとき、その情報が運動前野に送られます。
その結果として、ゴム製の手が自分の手であるという感覚が生じるのではないかと考えられています。
脳の勘違いが生まれるわけです。

同じ研究室で行われた実験で、ゴム製の手を自分の手と思わせた後に、ゴム製の手を針で突き刺そうとしてみた(実際は突き刺していない)ところ、痛みを予想すると活動する領域(前部帯状回)と自分の手を動かしたいと強く思った時に活動する領域(補足運動野)が活動していたそうです。
つまり、自分の手が針で突き刺されそうだというときと同じ反応が出ていたということです。

脳の取扱説明書 p124

脳とこころの豆知識 - 私たちが見ている世界はみんな同じなのか

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