心的外傷ストレス障害 (PTSD)

心的外傷ストレス障害 (PTSD)Harmonista136

大きな災害の後、心的外傷ストレス障害(PTSD)が問題になってきます。これは、ストレスによる悪影響として最も深刻なものです。

PTSDでは、頭で考えたことや他からもたらされた影響によって生じた恐怖や不安で心が占められてしまいます。そして、なにか特定の刺激が恐怖回路を過度に活性化させてしまいます。
例えば、PTSDをかかえた兵士は、爆竹の音を聞いただけで、戦争のストレスを再体験するとことがあります。

PTSDの病態生理に深く関わっているとされるのが青斑核から起こり扁桃体のbastolateral nucleusに終わる神経回路(brain circuit)においてノルアドレナリンシナプス後の反応です。

PTSDになると、新しいことを覚えるのに関係する海馬が小さくなると言われています。逆に、記憶に反応して、記憶や情動、とくに怖れや不安などネガティブな感情を引き起こす扁桃体は、過剰に活動します。
更には、その扁桃体を鎮めてくれる前頭連合野という場所の活動も低下してしまいます。

実際、PTSDの方と健常者に文章を読んでもらって、その直後としばらく時間が経ってから内容を思い出してもらうというテストをすると、PTSDの方では、直後としばらく時間が経ってからの両方とも点数が低かったそうです。

そして、恐怖症や不安状態と関係していて特に重要とされているのが視覚連合皮質と呼ばれる場所です。ここは、海馬を介して扁桃体と連結しています。
そのため、今見ているシーンが引き金となって、恐ろしい視覚記憶が思い出される可能性があるのです。そして、その視覚イメージが扁桃体を活性化して、不安や恐怖を引き起こすのです。

では、いったん作られてしまったこの恐怖の条件付けとも言える状態が軽減された時、脳はどうなっているのでしょう。
実は、扁桃体のその側にある強化されたシナプスを弱めるという根本的な消去が行われているのではなく、元の記憶が出てくるのを実際に抑え込んだり、禁止したりする新しい記憶を作ることによっておこるとされています。

つまり、消えたと思った恐怖の条件付けは、また復活する可能性があるのです。しかも、その条件付けは、再学習しやすくなっている、要するに簡単に条件付けされるということです。

とはいえ、災害後に生じたPTSDの症状を軽くするという事は大切です。

災害時地域精神保健医療活動ガイドラインによるとPTSDからの回復を促す条件は、以下の通りです。
現実面では、身体的安全の確保、二次災害からの保護、住環境の保全、日常生活の継続、経済的な生活再建への展望、生活ストレスからの保護。
一般的サポートでは、災害・援助に対する情報、援助者による現地の巡回、住民からみて援助が「手の届くもの」と感じられること、住民からの要望や質問に迅速に解答が得られること。
心理的ケアでは、心理的な変化に対する情報・教育、必要時の相談先の明示。

逆に、回復を阻害する要因のうち多く遭遇するものは、以下の通りです。
現実的援助の遅れ(生活再建の遅れ、避難先での生活環境の悪化、プライバシー確保の困難、家族・知人の死傷や消息不明)、災害弱者(乳幼児、高齢者、障害者、傷害者、日本語を母国語としないもの)、社会機能(単身者、家族以外に話し相手がいない)、その他(本人の意に反した取材活動、警察・行政・保険会社による事情聴取)

災害時地域精神保健医療活動ガイドラインhttp://www.ncnp.go.jp/nimh/pdf/saigai_guideline.pdf

脳とこころの豆知識 - ストレス

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です