私たちが経験した思い出というのは、その出来事が起った時に活動していた脳の部位と同じところに保存されています。
たとえば、子どものころ晴れた日に田舎に出かけ、鳥のさえずりを聞きながらアイスクリームを食べたという記憶は、たった1つの場所ではなく、いろいろな感覚領域に保存されています。
アイスクリームの味は味覚を処理する領域に、肌に照りつける陽射しは皮膚の感覚を処理する領域に、田舎の風景は視覚を処理する領域に、鳥のさえずりは聴覚を処理する領域にといった感じです。
でも、これらはもともと一緒に経験されたことなので、どれか一つの記憶、たとえば子どものころに食べたのと同じアイスクリームの味が引き金となって、そのときの皮膚の感覚や田舎の風景、鳥のさえずりの記憶を呼び起こし、最終的に記憶全体が再生されます。
ところが、別の人は、子どものころに同じアイスクリームを食べたときに転んでお母さんに心配されたとします。
その場合は、同じアイスクリームの味が引き金となって、膝小僧を擦りむいた時の感覚や心配そうなお母さんの顔の記憶が呼び起されることになります。
つまり、同じものごとを体験したとしてもその人の今までの経験によって、感じ方が違う可能性があるということです。
脳の取扱説明書 p132